サティヤ サイババの御言葉

日付:1987年8月16日
場所:プラシャーンティ マンディール
クリシュナ神降誕祭の御講話より

理想像としてのアヴァター

人々は、楽しい時間、地位、豊かな生活を求める
しかし、良い思い、英知、正しい行いを培おうとはしない
あなたは、なぜ脚が与えられたかを知っているか?
それは、路地や横丁をうろつき回るためか?
いいや、それはシヴァ神の聖堂へ赴くため
あなたは、なぜ目を授けられたかを知っているか?
それは、ありとあらゆるものを見るためか?
いいや、それはカイラーサの主(シヴァ神)を見つめるため

今日、この国が必要としているのは理想主義です。社会と世の中は、理想的リーダーの、人を鼓舞するような手本を必要としています。疑いなく、人々はそれぞれ特定の分野においては手本を示しています。しかし、すべての点において理想的な人間を発見することは、めったにありません。そのような理想的な手本となることは、神にのみ可能です。シュリ クリシュナ神は、社会的にも、政治的にも、倫理的にも、霊的にも、あらゆる点で最高の性質を実証した無類の理想像として傑出しています。

それほどのクリシュナについて、クリシュナは戦争屋であり平和を愛する者ではなかったとして、長年、議論がなされてきました。クリシュナは元来、平和を愛するものでした。神のやり方は、必ずしも万人に理解できるものではないのです。

今日、人々は神を神として礼拝しますが、アヴァター(神の化身)によって示された理想的な人間の特質を理解しようと努力を払うことはしていません。クリシュナが、人間として降臨し、人々の間で生き、活動したときに、人間の理想の姿を示したことで、初めて人間の生は意味のあるものとなったのです。クリシュナがどのような方法でそうした人間の卓越性のしるしを示したかを調べることは、価値があります。

ダルマジャとアルジュナは忍耐を失う

マハーバーラタの大戦争が勃発し、パーンダヴァ兄弟は、それぞれ個別に敵と対戦しました。長男のダルマジャはカルナとの壮絶な攻防劇を繰り広げました。パーンダヴァ軍の勢力は、カルナが放つ飛び道具に持ちこたえることができませんでした。ダルマジャは大変な緊張の下にありました。パーンダヴァ軍は敗走していました。ダルマジャは戦いを逆転させることができず、大きな苦悩を抱えて陣幕に戻りました。

ちょうどそのとき、アルジュナがダルマジャの陣幕に入って来ました。アルジュナを見た途端、ダルマジャは猛烈に怒りました。怒りに燃えたダルマジャは、アルジュナのどんな技も、強力な弓ガーンディーヴァの力も、まるで役に立たっていないと、絶叫しました。ダルマジャはアルジュナを罵倒しました。その非難に耐え切れず、アルジュナはガーンディーヴァを持ち上げると、ダルマジャを襲おうとしました。そのとき、その場にクリシュナが現れました。

クリシュナはアルジュナをなだめようと試みました。クリシュナは言いました。

「アルジュナ! 長兄に対して手を上げるとは、一線を越えている。兄弟というものは、まず兄に対して敬意を払い、兄の好意を得るものだ。君は自分の義務を忘れ、言葉に誘発されて間違った行為をしようとしている。」

クリシュナはこうしてアルジュナに強く忠告しました。クリシュナは、ダルマジャには身を引くよう求め、アルジュナにはどのように身を処するべきか正しい助言を与えました。クリシュナの訴えに怒りを鎮め、アルジュナはその賢明な勧告を受け入れて自分の陣幕に帰りました。

謙虚さの手本

隣接するダルマジャの陣幕に行って、ダルマジャの苦悩を見てとったクリシュナは、身をかがめてダルマジャの両足をつかみました。クリシュナは言いました。

「ダルマジャよ! 長兄がそのような振舞いをするのは適切なことではない。弟のアルジュナをあのような激しい言葉で責めるのは正しいことではない。君は発作的な怒りから、あんな言葉を使ったのだろう。兄弟愛において世の手本となってきたパーンダヴァ兄弟たるものが、その団結を損なうような不和を許すべきではない。パーンダヴァ兄弟は世の人々から理想と見られている。評判に背かない生き方をすべきだ。それゆえ、今すぐアルジュナのところへ行って許しを請いたまえ。」

クリシュナの愛に満ちた言葉を聞いて、ダルマジャは涙ぐみました。

「スワミ」と、ダルマジャは言いました。

「あなたのような、世界の支え、維持者であられる御方に私の足をつかまれると、私は恥ずかしくなります。」

クリシュナに許しを請うと、ダルマジャは直ちにアルジュナのところへ行って、許してほしいと嘆願しました。

これらの行動を神の行為として見る者には、神が引き受けるには、これらはあまりにも小さく、取るに足りないことに思えるかもしれません。「なぜ全能の神であるクリシュナが、このようなやり方で品格を下げるのか?」と尋ねる批評家たちもいるかもしれません。しかし、神が人類のために示したいと願う理想は、こういった取るに足りない出来事を通してのみ明らかにされるのです。

信者たちへの溢れんばかりの愛により、主は多くのことを行いますが、そのうちのいくつかは正しいこととは思われないかもしれません。そのすべては、ひとえに世界の安寧のために行われます。それらは社会への指針として役立つよう意図されているのです。

神は気取らない言葉で真理を宣言する

世に手本を示すため、神は明らかに取るに足りない活動に従事して、そこから学ぶべき教訓を説きます。神は謙虚さと尊敬の手本を示します。時として、神は厳しく、容赦もありません。神は気取らない言葉で真理を宣言します。この点において、再びクリシュナは手本を与えています。

ダルマジャは、国民と大臣と僧侶らの承認を得てラージャスーヤ ヤグニャ(最高権力者が行う供犠)を執り行いたいと願いました。ダルマジャはそのヤグニャを執り行うためにクリシュナの承認を求めました。ダルマジャの申し出を聞くと、クリシュナは微笑んで言いました。

「国のすべての君主たちから宗主権を認められた最高の皇帝だけが、その種のヤグニャを執り行うことができるのだ。君はそのような至高の皇帝ではない。シシュパーラ、ジャラーサンダ、ダンタヴァクラのように、君の権力を認めない支配者たちがかなりいる。そうした王がいる限り、君にはラージャスーヤ ヤグニャを執り行う資格はない」

国政におけるクリシュナの行動

こうして、クリシュナはダルマジャが計画を遂行するのを思いとどまらせました。クリシュナは常に、相手が誰であれ、場所や状況がどうあれ、真実を述べることを決してためらいませんでした。クリシュナは、もしダルマジャがラージャスーヤ ヤグニャを執り行いたいのであれば、まず強力な支配者たちを征服すべきであると言いました。

クリシュナの助言の意図を誤解して、クリシュナを戦争の扇動者と見なす人々がいます。クリシュナはダルマジャに戦争へ行くよう求めたのではありません。クリシュナがダルマジャに語ったことは、もっぱらラージャスーヤ ヤグニャを執り行う資格についてでした。

その後、ダルマジャは弟たちと相談して、シシュパーラやジャラーサンダ、他の者たちを武力で征しました。国政の分野におけるクリシュナの行動は、正しく理解されるべきです。

ラージャスーヤ ヤグニャが始まると、弟たちはそれぞれ特別な役割を割り当てられました。クリシュナも恭しくダルマジャに近づき、次のように言って自分にも役割を割り当てて欲しいと頼みました。

「世間が見ての通り、君は最高君主であり、私は臣下だ。それゆえ、どうか私にもこのヤグニャで何か役目を割り当ててほしい。」

この要求はダルマジャを悩ませました。それはダルマジャが全能で遍在の神と見なしている御方の言葉だったからです。ダルマジャは言いました。

「私はあなたに一切の恩を受けております。あなたが支配者であり、私はあなたの召使いにすぎません。」

クリシュナは答えました。

「帰依者として、君の言ったことは真実である。しかし、世間的な見方からすれば、君は定められた国王の義務を遵守しなければならない。神への義務と、統治者としての世俗的な責務は、区別しなければならない。」

この区別は、古代にそうであったように、今日でも真理たるものです。個人の自由と根本的な法は別ものです。国家に関する事柄は、個人的な利害関係と結びつけるべきではありません。

自分は特定の仕事を割り当てられるべきだと、クリシュナは強く主張しました。ダルマジャは言いました。

「クリシュナよ、何でもあなたのお好きな仕事をなさってください。」

クリシュナは反論しました。

「自分の好きな役割を選ぶためなら、君に頼む必要などない。私は、君が私にして欲しいことをしたいのだ。」

エゴの除去という点でのクリシュナの手本

二人の間に長い口論が続きましたが、最終的に、クリシュナは、ヤグニャに参列する学者や僧侶たちを迎え、彼らの足を洗い、深く敬意を表する役割を担いたいと言いました。

これは、クリシュナがエゴを除去する手本を示した実例です。なぜ、あれほど偉大で強力な人物であったクリシュナが、学僧(パンディト)たちの足を洗うような慎ましい仕事を請け負ったのでしょうか? 教訓ははっきりしています。リーダーになることを切望する者は、あらゆる場において指導者の特性を示すべきなのです。クリシュナは多くの仕事を引き受け、どの仕事も決して自分には卑しすぎるとか、小さすぎるとは見なさずに、あらゆる分野において世の人々の手本となりました。パーンダヴァ兄弟への無限の愛から、そして、一体性と兄弟愛を保護しようという気遣いから、クリシュナは容易には理解できないことをいくつか行いました。

クルクシェートラの戦いの前に、クリシュナはドゥルヨーダナをはじめとするカウラヴァ兄弟に交渉するため、パーンダヴァ兄弟の特使として派遣されました。クリシュナとパーンダヴァ兄弟の間に存在していた愛は、単なる親類関係や政治的関心に基づいたものではありませんでした。それはハートの一体性に基づいたものでした。パーンダヴァ兄弟は、クリシュナが彼らを愛したのと同じくらいクリシュナを信愛していました。パーンダヴァ兄弟には、クリシュナを特使としてカウラヴァ兄弟に派遣するしか選択の余地がありませんでした。

カウラヴァ一族の都であるハスティナープラに到着したとき、クリシュナは自分を大歓迎するために入念な準備がなされていることに気づきました。(実のところ、それは派手な歓待を誇示することで、クリシュナを自分たちの味方に引き入れようという、カウラヴァ兄弟の狭い了見によるものだったのです。)

特使としてのクリシュナの手本

クリシュナが馬車から降りると、ドゥルヨーダナとドゥッシャーサナらは、クリシュナを出迎え、宮殿内の迎賓館に宿泊してもてなしを受けるようにと勧めました。そのときさえ、クリシュナは国政の原則となる礼節をカウラヴァ兄弟に教えたのです。クリシュナは言いました。

「ドゥッシャーサナよ、私は特使としてやって来た。特使としての使命を果たした後に、あなた方の歓待を受けよう。それまでは、あなた方の客にはなれない。」

疑問の余地もない言葉で、政治的作法における教訓を与えたクリシュナは、それからヴィドゥラの館に向かいました。ヴィドゥラは、クリシュナを見るとひどく狼狽して尋ねました。

「クリシュナよ、あなたは全知であり、将来起こり得る事態をお見通しです。それなのに、なぜ、その任務をお受けになったのでのすか? パーンダヴァ兄弟は、どうしてあなたをここへ派遣することに同意したのですか? 邪悪なカウラヴァ兄弟は、あらゆる汚い手を使ってあなたに危害を加えかねません。それを知りながら、なぜ、ここへおいでになったのですか?」

クリシュナは答えました。

「ヴィドゥラよ、私がそれを知らないわけはないが、人々と世界の安寧のために、私はこのような任務を引き受けなくてはならないのだ。誰にも私の意図はわかるまい。私の唯一の関心事はダルマ(法)を維持することである。パーンダヴァ兄弟の間に、何ら亀裂が生じることなく、完全な調和と一体性が育つことを、私は望んでいる。パーンダヴァ兄弟の不和は世界に災いをもたらす。どれほど些細なものであれ、どれほど危険なものであれ、私はいかなる任務でも引き受ける覚悟がある。」

それから、クリシュナはカウラヴァ兄弟の集会場へ向かいました。クリシュナが入って行くと、ドゥルヨーダナとドゥッシャーサナがクリシュナを出迎え、クリシュナのためにあつらえた特別な上座に座るよう案内しました。クリシュナが入ってくると、場内の聖賢と要人たちは皆、起立しました。ビーシュマはドローナとドリタラーシュトラに付き添われてクリシュナに近づき、クリシュナのために用意した上座に着くよう嘆願しました。

この時クリシュナが述べたことは、世に向けて身をもって示した教えでした。

「ああ、王よ! 私はここにいる全員が席に着いてから座る。それまでは、席に着くことはできない。」

クリシュナはパーンダヴァ兄弟を弁護する

全員が席に着いても、クリシュナは立ったままこう言いました。

「まず、私は特使として来た使命を果たさなくてはならない。」

クリシュナはドゥルヨーダナのほうを向いて言いました。

「ああ、王よ! あなたの要求により、パーンダヴァ兄弟は追放の身として森で十二年を過ごし、さらに一年間身分を隠した後に戻ってきた。今日は、約束通りパーンダヴァ兄弟に王国を返す日だ。約束を守るのは、あなたの義務だ。」

クリシュナは、パーンダヴァ兄弟と交わした約束を守るべきであるとドゥルヨーダナに主張しました。クリシュナは言いました。

「パーンダヴァ兄弟はダルマの化身そのものだ。彼らは誰に対しても敵意や憎悪の感情を抱くことがない。私がいまやハスティナープラに向けて発とうというとき、ダルマジャは私の両手を握り、もし自分が知ってか知らずか、何らかの過失を犯していたら許してほしい、とあなたに伝えてほしいと懇願してきた。もし必要であれば、ダルマジャはいつでも直々にあなたを訪れて、足元に伏して許しを請うつもりでいる。これは、あなたとあなたの民に対するパーンダヴァ兄弟の高潔で公正な態度である。高邁な精神を持つパーンダヴァ兄弟に邪悪な感情を抱くのは、礼儀に適ったことではない。」

クリシュナの話を聞いて、ドリタラーシュトラは言いました。

「彼らは二人の兄弟(自分と弟のパーンドゥ)の子孫である。あなたの目には、子孫は皆、平等ではないのかね? 我らは一つの家族であり、ここは一つの王国である。カウラヴァ兄弟とパーンダヴァ兄弟を別の目で見るのは、正しいことであろうか?」

クリシュナとパーンダヴァ兄弟の愛の絆

そこでクリシュナは、遠慮も言葉を濁すこともなく、はっきりとドリタラーシュトラに状況の真相を説明しました。

「ドリタラーシュトラよ! カウラヴァ兄弟とパーンダヴァ兄弟には何の共通点もない。パーンダヴァ兄弟はダルマの化身そのものだ。私はパーンダヴァ兄弟の命を支える呼吸として、彼らと共に行動している。何が私をパーンダヴァ兄弟と結びつけているのかを言おう。体には多くの部分がある。私の体において、ダルマジャは頭だ。アルジュナは両腕に相当する。ビーマは私の腹のようなものだ。ナクラとサハデーヴァは両脚のようなものだ。クリシュナはこの体の心臓にあたる。私とパーンダヴァ兄弟との関係は、心臓と他の体の部分との関係のようなものなのだ。」

この言葉を聞いた瞬間、ドゥルヨーダナとドゥッシャーサナは憤然として、怒りで目が真っ赤になりました。傲慢が募り、肉体的な力にのぼせ上がると、人は目が血走るようになります。邪悪な心を持ったカウラヴァ兄弟にとって、この種の反応は無理もないことでした。

会場にいた年長者たちは皆、クリシュナに同意しました。一方、ドリタラーシュトラは、休憩を取るためといって席を立ちたがりました。その真の意図は、息子たちのいる場から離れて、こっそりとクリシュナに会うことでした。ドリタラーシュトラは私室に戻り、クリシュナはそこに行きました。ドリタラーシュトラは両手を合わせてクリシュナに嘆願しました。

「私の息子は邪悪な者たちです。息子への盲目的な愛情が、私の目を見えなくしました。パーンダヴァ兄弟は、疑う余地なく正義に適っています。真理と公正に対する彼らの忠誠心は、賞賛に値します。私には解決策を見出すことができません。」

悪には容赦しない

クリシュナはドリタラーシュトラに強い口調で語りました。

「ドリタラーシュトラよ! 息子を可愛がることは良いことだ。しかし、度を越えた執心は、有害かつ危険なものとなる可能性がある。体から、尿や便を出してしまおうではないか?」

ドリタラーシュトラは言いました。

「尿や便は血の通ったものではない。自分の血であり肉である息子たちを追い出すことなどできようか?」

クリシュナは、邪悪な者は良心の呵責なく処分すべきだと述べました。それが息子であれ、妻であれ、両親であれ、邪悪な者とは、ためらうことなく関係を絶つべきだとクリシュナは言明したのです。

「最善を尽くして、彼らが正しい道へ戻るよう説得したらいい。しかし、その努力が失敗に終わったら、見切りをつけるべきだ。」

この話をした後、クリシュナは和平交渉という自らの任務は成功しなかったことがわかりました。クリシュナはカウラヴァ兄弟の集会場には戻らずに、馬車に乗ってヴィドゥラの館へ戻りました。

ちょうどそのころ、パーンダヴァ兄弟は、クリシュナは邪悪なカウラヴァ兄弟のもとでどうしているだろうかと沈思黙考し、激しく苦悶していました。食べ物も飲み物も取らず、クリシュナに何が起こったのだろうと考え込んで、クリシュナの帰りを待ちわびていたのです。

クリシュナが戻り、馬車から降りてくるのを見て、パーンダヴァ兄弟は言葉では表現できないほど喜びました。クリシュナの任務がうまくいったかどうかは尋ねませんでした。ただ、クリシュナが無事に帰ってくることだけを考えていました。それだけで十分だったのです。パーンダヴァ兄弟は自分たちの今後については何も考えませんでした。クリシュナへの愛がとても大きかったので、クリシュナが無事でいるのを見て、パーンダヴァ兄弟は無限の喜びを感じました。ダルマジャは一番にクリシュナを抱擁しました。それから、弟たち全員がクリシュナを抱きしめ、喜びの涙でクリシュナを洗いました。

それから、末っ子のサハデーヴァが感極まった声で言いました。

「私は、クリシュナがこの任務を負ってカウラヴァ兄弟のところへ赴かれるのは嫌でしたが、自分が若輩であるがゆえ、また、人が旅に出ようとしているときに反対するのは不吉であるがゆえ、それを口にはできませんでした。我らの義兄上が無事に戻られて、私は億万長者よりも豊かになった気分です。平和であろうが戦争であろうが、私の命が失われようが、構いません。クリシュナがご無事でお元気であれば、私にはそれで十分です。」

神はいかに信者の幸福のために働くか

パーンダヴァ兄弟がクリシュナに抱いていた愛は、それほどのものでした。

ヤッドバーヴァム タッドバヴァティ
(人は自分が思う通りになる)

信者に対する神の愛は、神に対する信者の愛と同じように強いものです。信者の安寧と世界の幸福を考えて、クリシュナはもっぱら他の人々の幸福のために、行いの大小にかかわらず行動しました。クリシュナは賞賛にも非難にも無関心でした。クリシュナの唯一の目的は、信者を守護し、大小にかかわらず信者の願いをかなえることでした。クリシュナの目には一切が等しく映っていました。

人の中にある欠点を正し、それらを正しい道に方向づけながら、人間の姿をまとった神は、人類をあらゆる方法で高次の段階へ向上させるよう努めます。普通の人々は、神が特定のことを行い、それ以外のことは行わないのは適切なことだろうかと、尋ねるかもしれません。世俗的な観点からすれば、物事には大小があるように見えるかもしれません。しかし、神の計算方法では、そのような違いはありません。というのは、神は同一の神聖な愛をもってあらゆるものを見ているからです。神は人の大小を調べたりはしません。

クリシュナから教えられたアルジュナへの教訓

あるとき、アルジュナはひどく落ち込んでいました。その夜、アルジュナは人生に嫌気がさして、自殺したいと考えていました。全知なるクリシュナ神は、それを阻止することに決めました。クリシュナはアルジュナの館に赴き、緊急の問題について話し合いたいからといって、食事に誘いました。スバドラー(アルジュナの妻でクリシュナの妹)と他の者たちは取り込んでいたので、クリシュナはアルジュナを個室に呼びました。アルジュナが入ってくるやいなや、クリシュナは扉を閉めて錠を差しました。それからクリシュナは、アルジュナの足をしっかりと握りしめました。アルジュナは即座に叫びました。

「スワミ! 私が何かあるまじき行為をしたのでしょうか? なぜ、そんなことをなさるのですか?」

クリシュナは言いました。

「君のあらゆる肩書きや功績からすれば、自殺を考えるなど、君にはまったく似つかわしくない。君はパーンダヴァ兄弟の中でも一番だ。君は厳しい苦行や試練を経て、ガーンディーヴァ(シヴァ神の弓)を手に入れた。君は自分の感官の主人になるべきであって、感官の奴隷であってはならない。今、君は自分の心(マインド)と感官に負かされている。それは君にふさわしいことではない。これから先、どんな状況になろうとも、自殺など考えないと私に誓ってほしい。君の命は私のものであり、私の命は君のものだ。神はあらゆる生き物の内在者である。それゆえ、私はあらゆる生き物の中に存在する。もし自殺を考えているのなら、君は自分の愛するクリシュナを殺そうと企てたという罪を犯すことになるだろう。」

アルジュナは言いました。

「スワミ! 私はあなたが明かしてくださった霊妙な真理を理解していませんでした。どうかお許しください。今後一生そのような行為は考えません。」

このように、クリシュナはパーンダヴァ兄弟への愛から、彼らを守るためならどんな苦労も惜しまず、召使いの仕事さえする覚悟でした。神は遍在です。神の目、足、手は、あまねく存在しています。神にとって、高い低いはありません。クリシュナは、夫たちを破滅から救うためにビーシュマの祝福を求めるようドラウパディーに助言して、彼女のサンダルさえ手で持っていったこともありました。世に手本を示すため、神は人間の姿をまとって多くのことを行うのです。

アルジュナはクリシュナと意見を異にする

あるとき、クリシュナがパーンダヴァ兄弟たちと話をしていたとき、アルジュナがクリシュナのある発言に異を唱えたことがありました。クリシュナは怒ったふりをして、その場を立ち去りました。クリシュナが出て行ったか行かないかのうちにすぐ、ダルマジャとビーマとナクラは、アルジュナのほうを向き、彼らの命の息吹そのものであるクリシュナに無礼な態度を取ったといってアルジュナを非難しました。その叱責に耐え切れず、アルジュナは心の中でクリシュナに祈りました。と同時に、クリシュナが戻ってきて言いました。

「アルジュナがしたことは人間にはありがちなことだ。人間は気まぐれで、疑いやすい。知的になればなるほど、人はこういった特質に支配されることが多くなる。そのような者は、何事をも強くは信じられない。アルジュナよ、君は君の知性のゆえに、これまでに何が起こり、これから何が起こるのかを理解しないまま行動している。これからは、自分の知性に頼ってはいけない。神の意志を行うのだ。」

すると、アルジュナはこう言いました

「カリシェー ヴァチャナム タヴァ(何であれあなたのおっしゃることを忠実に守ります)。」(バガヴァッドギーター十八章七十三節の一部と同じセリフ)

神がアルジュナに確約を与えたのはそのときでした。

「私に思いを集中させ、私の信愛者(バクタ)となり、常に私を礼拝せよ。そうすれば、君は私に到達すると確証する。」(バガヴァッドギーター十八章六十五節の一部と同じセリフ)

神が人間のために定めた理想に従いなさい

昨今では、信者を名乗りながら、真の信者として行動しない人たちが大勢います。求められているのは、自分が言葉で述べたことを行動に移して、忠実に守ることです。そうして初めて、人は神の恩寵を得るにふさわしい者となるのです。ただ神を神として崇めるだけでは何の役にも立ちません。人間の姿をとった神によって定められた理想を理解し、それに従って行動しなさい。人間的価値を育成しなければなりません。人間の特質がなければ、単なる人間の姿に価値はありません。人間的価値を実践することによってのみ、人は本当の人間となるのです。

人間は、心(マナス、マインド)を所有していることにより、人間(マーナヴァ)という名前を有しているのです。心は善良な思いと邪悪な思いの束です。心を善良で純粋な思いで満たすなら、人は純粋になり、純粋な人生を送ります。道徳は善良な行為を土台としています。神聖で、純粋で、役に立つ活動は、正しい行為に相当します。そのような振舞いこそが、人間の卓越性の開花をもたらすのです。

人は、まず第一に神への信仰を育てるべきです。人はその信仰を土台に、人間に化身した神が教えと手本の両方を通じて人類に授けた理想に適うよう行動する努力をすべきです。

今日、科学や技術が途方もなく発展したにもかかわらず、人間は平和と安全を失って苦しんでいます。本当の平和は、霊的な方法を通してのみ得ることができるものであり、他の方法によって得ることはできません。

社会の中で生きているなら、あなたは個人と社会との相互作用を理解しなければなりません。それは、持ちつ持たれつという絶え間ない過程です。個々人は、社会に貢献し、かつ、社会から恩恵を得ています。この相互作用は、偉大な科学者アインシュタインの人生に起こった、ある出来事から理解することができます。

アインシュタインが示した人類への手本

アインシュタインの住んでいた町に、数学に弱い少女がいました。少女は数学で繰り返し落第点を取っていました。ある友人がその少女に、当代の大数学者アインシュタインのところに行けば、数学がよく理解できるよう助けてくれるだろうと勧めました。少女がアインシュタインのところに行くと、アインシュタインは少女に毎日数学を個人教授することを快諾しました。少女はとても感謝し、また、アインシュタインがそう申し出てくれたことで自信を得ました。

娘が毎日、大数学者のところへ個人教授を受けに行くのを見ていた母親は、小さな娘が初歩的な数学を教えてくれと頼んでアインシュタインの時間を無駄にしているのではないかと感じていました。ある日、母親はアインシュタインのところへ行って、娘がアインシュタインの貴重な時間を邪魔していることを詫びました。アインシュタインは言いました。

「私が娘さんに数学を教えているだけだと思わないでください。私は自分が教えているのと同じくらい、娘さんから多くのことを学んでいるのです」

何らかの学科に秀でている者は、一般知識や常識、世俗の知識に欠けていることを、アインシュタインは自覚していました。アインシュタインは、自分が大数学者であるにもかかわらず、幼い女生徒からかなりのことを学んでいるのを、恥ずかしいとは思っていませんでした。このように、どんな人やものからも進んで学ぼうとすることは、偉大さの真の印です。

アインシュタインは、人が行動を共にする仲間の種類に重要性を置いていました。アインシュタインはよく言ったものです。

「あなたの付き合っている仲間を教えてください。そうすれば、あなたがどんな人か言い当てましょう。」

もし善良な人々と交わるなら、あなたは善良になります。もし邪悪な人々と交わるなら、あなたは邪悪になります。

人としての一生は、神からの素晴らしい贈り物です。人生をそのようなものとして高く評価し、神聖な目的のために役立たせるべきです。

サイババ述

翻訳:サティヤ・サイ出版協会
出典:Sathya Sai Speaks Vol.20 C18
サイ ラム ニュース139号(2011年7・8月号)pp.10-24掲載